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ある授業風景


 以前、某進学塾の授業を見学をしたことがあります。大手の集団指導専門の塾で、 本来は他塾の関係者に授業見学など許可しないものですが、ある関係があって特別に参観することが出来ました。

 学習塾というと、その支部や系列の教室が各地にあって、ビルの一室なりワンフロアを借り切り、そこをパーテーションやブース等で細かく仕切って生徒を教えている、そういった塾がほとんどですが、私の見学した塾は支部を持たないので、校舎はそこだけにしかありません。 そのため40名は入れそうな教室が十数教室あり、学習塾というよりはひとつの学校のような規模の大きな塾です。

 その塾は難関校への合格者数も多く、入塾するためのテストもあって、一定のレベルに達していないと入れないので、その塾に通っているというだけでもステータスになる塾でした。

 見学したのは6年生の社会科です。授業が始まる前にそこの事務室で、授業を担当する先生と話をする機会がありました。この先生は長年その塾で教えている大変ベテランの先生で、教科についての知識も豊富ですし、教え方についても様々なアドバイスを頂きました。
 これからそれを実践した授業を見せてもらえるわけですので、 大変期待して先に教室に入って待っていると、その先生が入ってきました。

 普通、授業というと先生が一通りの内容を説明して、課題を生徒に与えて考えさせた後に、解き方覚え方等を解説する…… そういうイメージがありますが、その先生の授業は全く違っていました。

 どんな授業が始まったかというと、入ってくるなり、いきなり生徒たちに
「はい、これがわかる人?」と質問して教室中を見回します。 分かった生徒が挙手して指名されたらそれに答えます。 先生は次々に質問をしていきます。授業が始まってかなりの時間が過ぎても、先生が質問して生徒が答える……。
ただただその繰り返しです。

 先生は質問に答えた生徒とやりとりするだけで、教室にいる生徒全体に対しては、一向に解説やらなんやらの『授業』らしきものを始めません。 たまたまその単元のまとめの段階だったのかも知れませんが、成績上位の生徒を集めたクラスとのことでしたし、先ほどの事務室での話から、どんな『レベルの高い内容の』授業を見せてもらえるのかと期待していた私は、正直呆れると同時にがっかりしました。 先生が質問して生徒が答えるだけの授業……。

 「これでも授業なのか?さっきの事務室での話と違うじゃないか……」

 生徒たちの様子を見ると、最初は前の方の席に座っている出来の良さそうな特定の生徒のみが盛んに手を挙げ、後ろの方に座っている一部の生徒達が遠慮がちに手を挙げている程度でしたが、授業が中盤を過ぎる頃になると、それまで黙々とテキスト(たぶん他の教科) を見たり、ノートで何やら問題(たぶん他の教科)を解いていた他の生徒たちも、ひと段落ついたのか授業に参加しだし、手を挙げる生徒の数も増えてきました。

 先生は正解を答えた生徒を大変ほめてやり、同時に質問するテンポも上げ、教室は序々に熱気を帯びてきます。 時々間違った答えを言う生徒がいると、教室中にどっと笑い声が響きます。 別に間違えた生徒をばかにしているわけでもなく、 自分が答えるチャンスが増えたので、今度は自分が指名されようとすかさず手を挙げます。

 そのころになると先生の質問するテンポはますます速くなり、最後のころには周りの雰囲気に巻き込まれてか、先生の質問にほぼ全員が手を挙げます。
「はぃ!」「ハイ!」「は~ぃ!」「はい!」「はーい!」「はいー!!」「はぃ!」
40名近くの生徒が一斉に手を上げるのと同時に大声を上げるので、耳が痛くなるほどです。授業というより、まるで市場のせりです。

  私自身の小中学校時代の授業を思い返してみても、こんなに「盛り上がる」授業を 見たのは初めてです。そんな物凄い盛り上がりの中にいると、見学しているこちら側もお祭りに巻き込まれたような気分になり、何故か興奮してきてきます。

 結局この一問一答形式に終始した授業は、熱気と興奮に包まれたまま終わり、 終わった後には爽快感すら感じました。
  ただ、よく考えてみると、この授業で先生は生徒に何一つ教えていません。

 「進学塾のベテランの先生がなんでこんな授業をするんだろう? 生徒は生徒で、先生から何も教えてもらえないのに、何でこんな授業を受けに来るんだろう?」
と大変疑問に思いました。

  後で知ったことですが、 この塾は塾専用のテキストを使用していて、そのテキストの内容一年分を小分けにして 毎週日曜日にテストを行うとのことでした。一週間ごとにテストがありますから、塾の授業を受けてから勉強していてはとても間に合いません。当然、予習中心の勉強になります。 何回かのテストの結果でクラスも上下しますから、みんな必死に勉強します。 ですから、先生に教えてもらうまでもなく、授業で扱う内容のほとんどは、すでに学習済みの事柄ばかりです。

 では、この生徒たちは何をしに授業に来るかというと、 自宅で一人で勉強するのは孤独な作業です。そのモチベーションを維持させるために、この授業は必要なのでしょう。 ここは自宅で勉強したことの成果を確認する場、誇示する場、発散させる場です。 正解を答えて先生に認められるということが名誉な事なんですね。 同じ教室で勉強していても周りはみんなライバルなわけですから…。 そして、あのお祭りのような雰囲気を味わいたくて、家で必死に予習してくるんでしょう。
  多分、こういった生徒たちが、懇切丁寧に説明してくれる塾で授業を受けていたら、自ら勉強しようとは思わなくなるかもしれません。

  どこの進学塾でもそうですが、一人でも多くの生徒を志望校に合格させることを目的にしています。教えることは手段であって目的ではありません。 この先生は、その目的のために、いかに教えるかではなく、いかに学ばせるかを優先させていたのでしょう。

  ごく稀な例なのかもしれませんし、 たった一回参観しただけで、判断するつもりはありませんが、 大変示唆に富む授業を見せて頂いたと思っています。

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